当院の鍼は1本しか使いませんが、1本がゆえにできることがあります。
それは1本の鍼で複数の症状を同時に治してしまうことです。
もうおそらく5年以上のお付き合いになるSさん。もっとかな?
気を遣い過ぎてしまう性格と、精神面・肉体面ともにハードな仕事の影響で、疲れが溜まると様々な症状が現れます。
特に不安感・動悸といった精神症状に加え、身体のあちこちに痛みや痒み、時に皮膚に湿疹が出現したり、その都度症状が変わります。
今回はいつもとは違い、右の股関節~臀部~下肢の外側にかけての痛みに加え、右側の歯痛と口内炎もともなっていました。
お臍の周辺を探ると、身体全体の中で右下に気の偏在が見受けられ、右の足臨泣というツボの鍼をしたところ、翌日には症状がほぼ消失したとのことでした。
これを東洋医学における経絡で説明すると、この図がわかりやすくなっています。
これは足の少陽経という経絡になるのですが、この経絡は臓腑でいえば肝と表裏関係にある胆の腑と連なる経絡となります。
この図を見ると、見事に股関節から臀部、そして下肢の外側を流れるだけでなく、上半身では頬のあたり、口の中を流れていることがわかります。
経絡というのはツボとツボを結ぶルートのことで、気の通り道のことを指します。
その経絡の根元には臓腑があり、この経絡の場合の根元である臓腑は胆の腑ということになります。
胆の腑は肝の臓と表裏関係(ペア関係のようなもの)であり、肝の臓というのは疲労やストレスを溜め込む臓器でもあります。
この方の場合、疲労やストレスを肝の臓に溜め込み過ぎてしまい、肝の臓から溢れだしてしまった疲労が表裏関係であり胆の経絡の流れを阻害してしまい、今回のような各種症状が現れたというわけです。
その流れの中でもっとも渋滞しているポイント(今回の場合は足臨泣というツボ)を見つけ出し、そこに瀉法と呼ばれるツボの流れをよくする技を使って流れをもとに戻してみせたわけです。
そうすることで、一つのツボを使い、複数の症状を同時に治すことができたというわけです。
ちなみに一つの治療で複数の病・症状を同時に治すことを、中医学では「異病同治(いびょうどうち)」といいます。
その名の通り「異なる病であっても、同じ治療法で治す」という意味となります。
患者さんとのやり取りのなかで、「それとこれは関連した症状だから一緒に治しときますね」という場面が多くあるのですが、こういった理論的背景があるのです。
鍼ってほんとうに面白いですし、患者さんだけでなく、この事実を知らない鍼灸師も含め、もっと多くの方に知っていただきたいと強く思います。
また随時お知らせしますが、私も所属する(一社)北辰会の代表、藤本新風先生が北辰会方式の入門書的な書籍を出版します。
院内にも置いておくので、皆さんぜひお読みくださいね。
できたらご購入いただけると、とても嬉しく思います。
お電話ありがとうございます、
輝鍼灸院でございます。