伝統鍼灸解説ブログ

奔豚気:パニック障害・不安障害

パニック障害・不安障害とは?

突然何の理由もなく、動悸、めまい、過呼吸、吐き気、手足の発汗・震えといった発作を起こし、そのために日常生活に支障が出ている状態をパニック障害といいます。
パニック発作は、死んでしまうのではないかと思うほど強くて、ふたたび発作が起きたらどうしようかと不安になり、発作が起きやすい場所や状況を避けるようになります。

奔豚気とは?

中医学ではパニック障害に類似した疾患概念として「奔豚気」があります。『金匱要略』奔豚気病脈証併治第八に「奔豚の病は少腹より起こり、上って咽喉を衝き、発作すれば死せんと欲し、復還りて止む。皆恐驚よりこれを得」と記載されています。現代風に解釈すれば、「子豚が下腹部から上って咽喉にかけて突き上げ、死んでしまうのではないかというような感覚が突然襲ってくる。この発作は恐れや驚きといった感情がきっかけとなって起こる。」といったイメージです。このページでは「奔豚気」について、中医学的にどのようにとらえているのかを説明していきます。

【概念】

・不快感が下腹部に起こり、胸から咽喉にまで達するもの。

・症状は時間とともに落ち着き、平常に戻る。

・女性に発生しやすい。

【病因病機】

病因病機としては、2つのパターンが存在します。

  • 肝気鬱結~肝鬱化火となり、衝脈に従って気が上逆するもの。

(精神的なストレスや疲労が蓄積し、体内の気が上に突き上げることによって起こる。)

  • 下焦の寒気が衝脈の気に従って上逆するもの。

(足元が冷えることにより、相対的に気が上がるもの。冷えのぼせ。)

【弁証】

①肝気逆による奔豚

〔症状〕

下腹部から気が上衝し、のどに突き上げるような感覚。

呼吸が早くなる・嘔吐・腹痛・精神不安による動悸・奔豚は発作性。

〔体表所見〕

百会に熱感・圧痛が顕著。

神道・霊台・至陽・八椎下・筋縮などに圧痛。

腹診・背候診ともに上実下虚。

舌先紅刺、白苔。

脈では寸口が旺気or枯弦脈を呈す。

②肝鬱化火による奔豚

上記の肝気逆による奔豚に、煩渇、紅舌黄膩苔、脈弦数など熱所見が加わる。

内関や百会に熱実の反応を呈し、百会は陥凹する。

神道や筋縮の熱感や圧痛が顕著。

舌先紅刺・紅点が多くなり、舌辺は無苔傾向、化火が強ければ乾燥する。

③下焦有寒・肝気挟寒上逆の奔豚

下腹部の冷え。身体や手足の冷え・動悸・不安感。

白膩滑苔。

腹診では少腹急結の程度に着目。

脈沈緊遅。脈では特に尺中の沈位を中心に緊脈(胃の気の脈診における第2脈の枯脈~枯弦脈)or第4脈の緩不足が現れる傾向がある。

まとめ

中医学的に主なものを上記の通り3つあげましたが、実際はもっと複雑で様々な要因が絡み合います。基本的には疲れやストレスが溜まり、常日頃から心と身体が強張り緊張状態にある方が多く、身体の中にマグマのように溜め込んでしまっているものが、何かのきっかけで噴火してしまう。それがパニック障害・不安障害だと思って下さい。ですから、治療としてはまず溜め込んでいるマグマ(疲労・ストレス)を取り除き、次にそのマグマが溜まりにくいような状態を維持してあげればよいのです。要は心と身体の緊張・強張りを緩め、普段からリラックスできるような状態にしておくのです。個人差はありますが、基本的には治療を始めて1か月以内には効果を感じ始め、3~6か月以内にはほぼ症状が出現しなくなることが多いです。

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