【症例報告】一人になると襲う不安感と動悸。病因の主従を見極める一本鍼で、約半年で症状が消失したケース

本症例は、長年のハードな職場環境による緊張に加え、お母様との別れや退職による孤独感をきっかけに、常に強い不安感と動悸に悩まされるようになった60代女性の臨床経過です

「一人になるとパニックのようになる」「常に緊張していてリラックスの仕方が分からない」という深刻な状態に対し、当院が東洋医学の網の目をどのように広げて原因の主従(優先順位)を見極め、たった1本の鍼でお身体を本来の穏やかな状態へと調律していったのかを詳しくご紹介します

1. 患者様プロフィールとこれまでの経過

【患者様】

  • 年代・性別:60代・女性

  • 主な症状:常に強い不安感があり、リラックスして過ごせない。不安なことを考えすぎてしまう

  • 随伴症状:ひどい時の動悸、電車のなかや自宅に一人でいる時のパニック感、歯医者の治療後に強く出る激しい食いしばり・肩こり

【これまでの経過(病歴)】

長年、金融関係の非常にハードでストレスの多い職場で責任ある生活を送られていました。40代後半のときに「電車に閉じ込められる」という経験をし、それ以来、乗り物に対して慢性的な苦手意識を持たれていました

大きな転機となったのは4年前、お母様が他界され一人になられた時期でした。この頃から、かつての苦手意識が明確な「不安・緊張・動悸」として表面化し、電車に乗ることが困難になります。さらに3年前、勤めていた会社を退職したことで社会との繋がりが薄れ、孤独感が強まるとともに症状がさらに悪化してしまいました

2年前から始められたピラティスによって一時的に症状は少し和らいでいましたが、最近の定期検診で腫瘍が見つかり、「また悪いことが起きるのではないか」という思慮過度(考え込み)から不安が再燃、症状が一段と悪化した状態で当院にご来院されました

2. 初診時の問診と東洋医学的見立て(証)

当院では、目に見える不安や動悸という症状の奥にある「人生の背景」を紐解くため、初診時に約1時間弱の丁寧な対話(問診)を行います

◆ 中医学的見立て(証)

  • 【 心血虚(しんけっきょ)】 ➡️ 現時点の最優先原因(本)

  • 【 肝鬱気滞(かんうつきたい)】 ➡️ 慢性的な背景原因(標)

◆ 病態のロジックと診断理由

患者様のお身体には、2つの大きな乱れが混在していました。 1つは、長年ハードな職場でストレスに晒され続けたことで、気の巡りを司る「肝」がギューッと渋滞を起こした状態(肝鬱気滞)です。 もう1つは、お母様の逝去やご自身の病気という度重なるショックにより、頭と心が休まることなくエネルギーを消耗し続け、精神を安定させる「血(栄養・潤い)」が完全に枯渇してしまった状態(心血虚)です

東洋医学では、心(こころ)の安定は「心血(しんけつ)」という潤いによって支えられていると考えます。これが底を突いたために、精神の拠り所を失い、「一人になると不安でたまらない」「動悸がする」「考え事が頭から離れない」という状態を引き起こしていました

初診時の糸口として、当院は「肝の渋滞(肝鬱)」よりも、まずは枯渇したバッテリーを満たす「心の潤い不足(心血虚)」の処理を最優先(主)にすべきだと判断しました

3. 施術内容と経過

◆ 使用したツボ(選穴)

  • 初期:左 心兪(しんゆ)

  • 中期以降:百会(ひゃくえ)

    (その都度、「1穴のみ」を厳選)

◆ 選穴の理由

初期は、極限まで減ってしまった「心血」を速やかに補い、パニック状態にある精神の昂りを優しく着地させるため、背中にある「左心兪」への一本鍼を選択しました。心のバッテリーが満たされ、不安のベースが落ち着き始めた中期以降は、長年の慢性的な緊張(肝鬱)を解き放ち、自律神経のオン・オフを正常化させるために頭頂部の「百会」へとツボをシフトしました

◆ 臨床経過

  • 3回目:張り詰めていた心の糸が少し緩み、主訴である不安感が楽になってきたことを実感される

  • 7回目:混雑した電車で一時的な緊張を覚えたり、梅雨時の高湿度で身体の重さを感じるなど季節の波はあるが、以前ほどのパニックにはならない

  • 12回目:お仕事で強いイライラがあり、一時的に血圧上昇や肩こりが出現。しかし、夜しっかり眠ることで翌朝には自力で回復できるまでに、自然治癒力が底上げされている

  • 13回目:当初の目的であった「動悸や不安」は日常生活でかなり激減。ここからは、緊張の残骸である「食いしばりや肩こり」にアプローチするため、ツボを「百会」へと変更

  • 25回目(約半年):苦手だった歯医者の治療を受けた後も、以前のように強い肩こりや食いしばりが出なくなる。心身ともに「常にリラックスして過ごせる」という目標を達成し、約半年で主訴が完全に消失(略治)

  • 31回目:施術の頻度を週に1回へ減らしても、調子は非常に安定

ご来院から1年が経過した現在も、1週間〜2週間に1回のペースでメンテナンス通院を続けられています。「毎日が本当に穏やかで、健康に過ごせている」と、心からの笑顔で喜ばれています

4. 院長からの総評

本症例の患者様は、複数の原因(心血虚・肝鬱気滞)が複雑に絡み合い、ご自身ではどこから解きほぐせばいいか分からないほどの重い糸玉のようになっていました

西洋医学であれば、不安には抗不安薬、動悸には循環器の薬、食いしばりにはマウスピース…と枝葉の対処になりがちですが、東洋医学に基づく当院の一本鍼は、まず「心血虚(こころのエネルギー枯渇)」を潤し、その後に「肝鬱(自律神経の渋滞)」を流すという、病因の『主従(優先順位)』を完璧に見極めて順序よく治療できたことが、わずか半年での劇的な改善へと繋がりました

治療の初期段階では、当然お身体や環境の波に左右され、不安になられる瞬間もあったかと思います。しかし、患者様が当院の見立てを信じ、実直に、前向きに通院を頑張ってついてきてくださったからこその結果です

いつも臨床の現場で痛感することですが、鍼治療とは、私が一方的に治すものではありません。患者様とお身体の声を丁寧に聴き、共に歩む「二人三脚」の信頼関係があって初めて、長年の深いトンネルから抜け出す光が見えてきます

リラックスの仕方を忘れてしまうほど、一人で緊張と不安を抱え込んでいる方へ。あなたの心のバッテリーを満たし、健やかな毎日を取り戻すお手伝いをいたします。どうぞ安心して、当院のドアを叩いてください

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