本症例は、結婚や仕事のプレッシャー、日々の過労を一人で抱え込んだ結果、激しいめまいや動悸、手の震え、不眠を伴ううつ症状を発症された20代女性の臨床経過です。
ある日突然限界を迎えて倒れてしまうほど深刻だった心身のSOSに対し、当院がどのように東洋医学的見立てを行い、「原因の1点に絞る一本鍼」でお身体を本来の真ん中の状態へと調律していったのかを詳しくご紹介します。
1. 患者様プロフィールとこれまでの経過
【患者様】
-
年代・性別:20代・女性
-
主な症状:気分の激しい落ち込み、考え込み、うつ症状
-
随伴症状:めまい、動悸、手の震え、吐き気、不眠(眠りが浅い・思考の空回り)、眼の疲れ・乾燥・痒み、肌荒れ、爪が割れやすい
【これまでの経過(病歴)】
幼少期から喘息、アトピー、鼻炎などのアレルギー体質をお持ちでした。大人になりIT関連の職に就いてからは、慢性的な眼の疲れや乾燥、痒みに加え、爪が割れやすくなるといったサインが身体に現れ始めていました。
昨年ご結婚されましたが、結婚式の準備と仕事の多忙期が重なり、心身ともに大きな疲労を溜め込んでしまいます。その後もさらに仕事量やプレッシャーが増加。非常に責任感が強く、性格的に他人に甘えたり依存したりすることができないため、すべての業務を一人で抱え込んでしまっていました。
今年の3月、美容院で1時間ほど座り続け、立ち上がった瞬間に意識を失って転倒。この日を境に、それまで限界まで溜め込み続けていた疲労が一気に表面化し、明確なうつ症状やめまい、動悸、手の震えが継続するようになります。4月からは仕事を休職し、復職を間近に控えたタイミングで当院にご来院されました。
2. 初診時の問診と東洋医学的見立て(証)
当院では、初診時に約1時間弱の丁寧な対話を行い、目に見える症状だけでなく、患者様の性格、生活背景、体質の歴史を深く紐解いていきます。
◆ 中医学的見立て(証)
-
【 肝鬱化火内風(かんうつかかないふう)】
-
【 脾虚(ひきょ)・ 腎虚(じんきょ)・ 肝血虚(かんけっきょ)】
◆ 病態のロジックと診断理由
もともと体内のエネルギーをコントロールする「肝(かん)」のバランスに波があり、ストレスを溜め込みやすい体質でした。それに加えて結婚や仕事の過労、プレッシャーを一人で抱え込んだことで、体内の「気(エネルギー)」が激しく渋滞を起こします(肝鬱)。
渋滞した気はやがて激しい熱(火)へと変わり、お身体のキャパシティを超えた瞬間、まるで体内で突風が吹き荒れるような状態「肝鬱化火内風(かんうつかかないふう)」へと移行しました。美容院での突然の失神・転倒や、手の震え、めまいは、この体内の「内風(突風)」が頭部や手先に強く影響した結果です。
また、眼の乾燥や爪の割れやすさは、体内の栄養や潤いである「肝血(かんけつ)」が枯渇しているサイン(肝血虚)であり、生命力の土台である「腎」や消化吸収を司る「脾」も過労によって深く傷ついていました(腎虚・脾虚)。この熱とエネルギー不足が、精神を安定させる「心神(しんしん)」を激しく乱し、深い気分の落ち込みや、夜に思考がぐるぐる回って眠れない深刻な不眠を引き起こしていたのです。
3. 施術内容と経過
◆ 使用したツボ(選穴)
-
初期:百会(ひゃくえ)
-
中期以降:天枢(てんすう)、不容(ふよう)、照海(しょうかい)、中脘(ちゅうかん)などから、その日の病態に合わせて「適宜1穴」を厳選
◆ 選穴の理由
初期は、心神の乱れを鎮め、頭部で吹き荒れている熱と風を速やかに散らすために、諸陽の会である頭頂部の「百会」を中心とした疏肝清熱(気の滞りを解き、熱を冷ます)を行いました。
症状が落ち着き始めた中期以降は、復職による環境変化やその日の体調、生理周期による変化を見極め、土台のエネルギー不足を補う(脾・腎・肝血の補益)ツボをその都度「1点だけ」厳選し、適切に補瀉(刺激の調整)を使い分けました。
◆ 臨床経過
-
2回目:初回施術以降、頭の興奮が静まり、少し眠りやすくなる。
-
3回目:引き続き夜はしっかりと眠れており、気分の波も穏やかに落ち着いている。
-
6回目:念願の復職を果たす。環境の変化から一時的に気分が落ち込み、肌荒れが出現。
-
7回目:前回の施術でお身体を調整したことで、休むことなく持ち直す。
-
8回目:生理が始まり、一時的に身体の重さを感じるが、大きな崩れはなし。
-
12〜15回目:日々のストレスが重なり、一時的に下痢や気分の落ち込み、喉の渇き、眠りの浅さ(考え事が頭をぐるぐる回る)が再発。その時々のお身体のサイン(寒熱の偏り)に合わせて1本の鍼で丁寧に調律を重ねる。
-
22回目:波を乗り越え、自律神経のベースが一段と強くなり、調子が安定してくる。
-
25回目(4ヶ月目):うつ症状はもちろん、動悸・不眠・手の震え・めまいなどのすべての随伴症状が完全に消失。全体にすこぶる調子が良くなり、元気に復職生活を続けられるようになったため、いったん鍼治療を終了(略治)。
最初の3ヶ月間の不安定な時期は「週に2回」、症状が安定してきた4ヶ月目は「週に1回」のペースで通院していただきました。
4. 院長からの総評
本症例の患者様は、非常に責任感が強く、周囲に迷惑をかけまいと何でも一人で背負い込んでしまう、本当に健気で頑張り屋さんな女性でした。それゆえに限界までSOSを無視してしまい、美容院での転倒という形で一気に身体がストライキを起こしてしまったのです。
施術の初期段階で早々に症状が安定しかけましたが、途中で「復職」という大きな環境変化があったため、一時的に一進一退の不安定な時期を迎えました。しかし、そこで諦めることなく、お伝えした通院頻度を実直に守って通い続けてくださったことが、今回の素晴らしい結果に繋がりました。
また、発症(美容院での転倒)から当院へご来院いただくまでの期間が短かったこと、そしてお若く本来の体力が備わっていたことも、わずか4ヶ月という短期間で略治(ほぼ完全な回復)へ導けた大きな要因です。
うつ症状に伴って、動悸、めまい、不眠、手の震えなど、あまりに多くの症状が一度に出ると、西洋医学では心療内科、耳鼻科、内科と、それぞれの症状に対して別々の薬が処方され、お身体の負担が増えてしまいがちです。
ですが、東洋医学に基づく当院の「1本鍼」は、これらバラバラに見える枝葉の不調を、すべて「肝・脾・腎の乱れ」という1つの根っこ(根本原因)として捉えます。根元の土壌を正し、気の巡りを真ん中へと調律すれば、いくつもの不調はドミノが倒れるように同時に、きれいに消え去っていきます。
他人に頼ることが苦手な方こそ、どうかその重い荷物を一度降ろしに、当院の丁寧な対話と一本鍼を頼ってください。あなた本来の健やかで穏やかな毎日を、一緒に取り戻しましょう。
この記事に関する関連記事
- 【中医学のロジックで紐解く】不眠症・睡眠障害の病因病理と一本鍼の選穴根拠(より詳しく知りたい方向け)
- 【中医学のロジックで紐解く】パニック障害・不安障害の病因病理と一本鍼の選穴根拠(より詳しく知りたい方向け)
- 【症例報告】一人になると襲う不安感と動悸。病因の主従を見極める一本鍼で、約半年で症状が消失したケース
- 【不眠症の東洋医学的養生法】心の熱を鎮め、深い眠りを育む5つの生活調律
- 【自律神経失調症の東洋医学的養生法】乱れた「気(エネルギー)」の波を真ん中へと調律する5つの習慣
- 【症例報告】15年来の頭痛と、めまい・吐き気・気分の落ち込みを伴う随伴症状が2カ月で劇的に改善した症例
- 【パニック障害の東洋医学的養生法】心と身体の「気の高ぶり」を鎮める、5つの生活調律
- 【症例報告】4年来の睡眠障害・うつ・耳の不調を伴う自律神経失調症が、頭の「1本鍼」で劇的に改善したケース
- 「なんとなく不調」の正体は?自律神経と東洋医学の深い関係
- 【症例報告】予期不安と広場恐怖で電車に乗れなかったパニック障害が、「1本鍼」で克服できた症例





お電話ありがとうございます、
輝鍼灸院でございます。