伝統鍼灸解説ブログ

痹病:リウマチ

中医学ではリウマチによく似た概念として痹病があります。WHOでは痹病について、

「人体の営衛が失調し、風寒湿の三気を感受して病を引き起こしたり、久しく正気が虚し、内に痰濁・瘀血・熱毒が生じ、正邪が相うち血脈・筋骨・肌膚・経絡、甚だしければ臓腑の気血を閉塞し、それらを濡養できなくなったために、関節などに痛み・だるさ・しびれ(麻木)・ほてり・屈伸障害・腫脹・変形・硬直を引き起こし、生活活動に支障をきたし、ひどくなると臓腑まで影響する一群の疾病」

と定義しています。

臨床上、痹病(リウマチ)は発症時に風邪が関与することが多く、痛みの特徴として動き始めは痛むが、動き始めると緩解するという特徴があり、風邪が関与するので発症当初は風邪症状を伴うことが多い。ただし、慢性化している段階では風邪症状はあまり見られない。精神的ストレスや疲労の蓄積、また身体の弱りが背景にあることがほとんどであり、根本的な解決のためにはそれらの問題を処理していく必要がある。

※坐骨神経痛・強直性脊椎炎・頚椎症・強皮症・全身性エリテマトーテス・多発性筋炎

リウマチだけでなく、坐骨神経痛・強直性脊椎炎・頚椎症・強皮症・全身性エリテマトーテス・多発性筋炎などの疾病でも痹病の弁証論治を参考にし、治療することができる。

痹病に至るまでのいくつかの病理

①寒さや湿気の厳しい地域に住んだり、寝ながら風に当たったり、雨に濡れたりなどが原因で風邪・寒邪・湿邪が侵入したり、風寒湿が鬱滞し熱に変わったり、もしくは風湿熱の邪が侵入して筋骨血脈に留まったりすると、気血の循環が悪くなり、経絡が遮られて発症する。

②長く病気を患ったため気血の循環が悪くなったり、怪我などの外傷で血絡を損傷して瘀血が停滞したり、飲食の不摂生などで体内に湿が発生し凝固して痰になったりすると、痰と瘀が結びついて経絡を閉ざし、関節深くにまで入り込んで発症する。

③もともと身体が弱く気血が不足している体質の人は風邪をひきやすく、ただ風邪をひくだけでなく身体の奥深くまで侵入されてしまうので痹病が発生しやすい。発症当初は手足や身体の浅い部分を侵されるだけだが、長期化すれば病が膠着状態になり、病は深く入り込み治しにくくなる。

痹病の種類

・行痹(こうひ・風邪中心)

手足や体幹部の関節や筋肉に疼痛とだるさがある。

疼痛は遊走性で一カ所に留まらず、あちこちが痛む。

初期には寒気や発熱などの風邪症状を伴うことが多い。

・痛痹(つうひ・寒邪中心)

手足や体幹部の関節の激痛・固定痛。

患部に発赤や熱感はなく、冷感がある。

冷えると悪化し、温めると緩解する。

日中は軽減し、夜中に悪化する。

・着痹(ちゃくひ・湿邪中心)

固定痛・強い重苦しさ・皮膚のしびれ・患部の腫脹を伴う。

温めたり押したりするとやや緩解する。

・熱痹(ねっぴ・熱邪中心)

手足や体幹部の関節の疼痛があり、患部が赤く腫れあがって灼熱感を伴う。

腫脹と疼痛が激しく、発熱・口渇を伴うことがある。

冷やすと喜ぶ・悪熱。

・頑痹(がんひ・瘀血痰濁が関与)

病が長期化して瘀血痰濁に遮られたもの。

関節の硬直変形・患部が暗黒色になる。

激痛・屈伸できない・痛みとともに痺れがある。

風寒湿証を伴うものは患部の冷えがあり、冷えると増悪し温めると緩解する。

湿熱証を伴うものは患部が紅く腫れて発熱する。

・虚痹(きょひ)

病が長引いてなかなか治らない場合に発生する。

①気血虚痹は、関節が痛くだるい・軽減したり悪化したりする・顔色が黄色で艶がない・頭のふらつき・動悸・息切れ・力が入らない・痩せる・食が進まない・泥状便などの症状がある。

②陽虚痹は、関節痛・強い冷感がある・筋肉の萎縮・顔色が白い・腰と膝がだるい・尿が透明で量が多い・泥状便・明け方に下痢・体幹部や手足に冷えなどの症状がある。

③陰虚痹は、患部が紅く腫れあがって灼熱感がある・関節痛・筋肉の強張り・痩せる・頭のふらつき・耳鳴り・口とのどの乾燥・不眠・夕方以降の発熱・寝汗・腰と膝がだるい・大便が乾燥する・小便が黄色いなどの症状がある。

まとめ

痹病といってもレベルは様々であり、発症間もない時期であれば短い期間で治すこともできますが、長期化・慢性化し関節が大きく変形してしまったものを元の状態にまで戻すことは困難です。しかし、症状の進行を食い止め、痛みやしびれなどの症状を軽減もしくは消失させることは可能です。西洋医学で治すことが困難とされる疾患ですが、東洋医学的な観点で治療すれば、喜んでいただける疾患の一つだと考えています。

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