【症例】手足に力が入らない
今年のはじめから通って下さっている70代の女性の患者さん。
当初の主訴は、足に力が入らず歩きにくい、手にも力が入らず料理など細かな仕事ができない、腕が上がらないので服も自分で着ることができないというものでした。
痿証(いしょう)
中医学的に見れば、痿証(いしょう)と呼ばれる状態であり、肢体の筋肉が弛緩し、手足が萎えて力が入らなくなり動けなくなる病症のことをいいます。
『景岳全書』痿証「蓋痿証最忌散表、亦恐傷陰也」
とあるように、古代から痿証に対しては「傷陰(しょういん)」することがもっとも危険だと考えられています。
傷陰(しょういん)
傷陰とは、わかりやすくいえば体内の潤いを失うことです。
人は年齢とともに徐々に潤いを失っていきます。
樹木でいえば若木は瑞々しく潤っていますが、老木になれば徐々に乾燥し枯れていきます。
人も同様に潤いをなくしていくのですが、体質やその他の条件により潤いを失う程度が酷くなれば、この方のように痿証に至ることもあるのです。
この方の場合は、ご主人の病気による看病による心労や過労により、傷陰が進み過ぎたことが原因でした。
この診立ての通り、この患者さんには初診から徹底的に1つの同じツボを使って、体内の潤いを増す治療を継続しました。
いつもの通り、鍼はたったの1本です。
はじめの数か月は週に2回通っていただき、3カ月後には1時間以上散歩ができるようになり、自分で服も着ることができ、細かな手作業による家事もできるようになったと喜んでいただけています。
脊髄小脳変性症
この方の場合、病院では原因不明といって病名はついておりませんが、脊髄小脳変性症という難病をかかえ、同じように手足や身体に力が入らないという症状で通われている患者さんもおられます。
病名のあるなしに関わらず、あくまで東洋医学では身体の状態を診て治療していきます。
病名がないから治療ができないということもありません。
ちなみにこの二人の患者さんは、同じような症状ですが、使うツボはまったく違います。
前者の患者さんは潤いを増やすためのツボに鍼をして、後者の患者さんには過度の緊張を緩めるための治療と、身体の弱りを補う治療を織り交ぜつつ、その時に応じた治療を継続しています。
このように同じような病であっても、異なる治療をすることを同病異治(どうびょういち)といいます。
どのような病であっても、あくまでその人の身体の中で起きている気の歪みを分析し、本来あるべき状態に調えれば病は癒えていくという、東洋医学の真骨頂ともいえる考え方です。
一覧に戻る